「側音化構音」の実態と治療について
側音化構音とは、機能性構音障害のうち異常構音に分類されるものの一つで、主にイ段(キ、シ、チ、ニ、リ等)やサ行が正しく発音できないものを言う。
●側音化構音で現れる歪み音
○イ段の音(イ、キ、ギ、シ、ジ、チ、ニ、ヒ、リ、など)が正しく言えない。(サンプル音声)
○キが正しく言えない。(サンプル音声1) (サンプル音声2)
○ギが正しく言えない。
○ケ、キ、ゲ、ギが正しく言えない。
○サ行がシャ行やヒャ行のようになる。
○シが正しく言えない。(サンプル音声)
○ジ、ヂが正しく言えない。(サンプル音声)
○チが正しく言えない。(サンプル音声)
○ツがチュ、キュのようになる。
○ニが変だ。ギのようになる。
○ヒが正しく言えない。
○ヤ行が正しく言えない。
○リが正しく言えない。(サンプル音声1) ギのようになる。(サンプル音声2)
○拗音(キャ、シャ、チャ、・・・ など)が正しく言えない。(サンプル音声)
○ある発音の時だけ唇がゆがんだり、下アゴが横にずれる。
○ある発音の時だけ息が横に漏れる気がする。サンプル音声は何れも完治例の指導前の時点もの。
●メカニズム
狭母音による逆行同化時、あるいはまれに歯茎摩擦音に伴い、舌が正中線に向けて緊縮し、前部が口蓋に張り付く。その結果呼気は正中線沿いの流路を塞がれて側方へ向かい、摩擦・破裂音が歪む。多くの場合、これに無理な補償操作(下アゴの偏位、前舌の偏位やねじりなど)が加わる。後続の母音も共鳴腔の異状によってフォルマントが崩れ、こもった印象となる。
このときの舌は形状によって棒状、三角柱、凸字状、凹字状、ゾウアザラシ顔面状などと表現されるが、これらは目的音の属性である高周波数の共鳴を得ようとするための誤った舌背挙上操作と解釈される。
音が歪むと同時に、唇の左右・上下への偏位、唇渋面、口角付近の皮膚の凹み、下アゴの偏位、硬直した舌端などが不自然な視覚印象を与える。多くは噤黙時にも赤唇の左右不対称が観察される。また、多くは口の中の息の流れ方がおかしいと自覚する。
構音獲得年齢の当初から現れるが、幼児語と誤解されて放置されることが少なくない。小学校の「ことばの教室」でも長年「指導が困難な種類」とされてきた。学童期以降に自然に改善するものもあるが、ニ、シ、チ、ジについては自然治癒は期待できない。
成人に見られる機能性構音障害で最も多いのが側音化構音だが、今では正しい指導で極めて短期に治癒することが明らかとなっている。
●成人の側音化構音の内訳(2010年末での集計。母数718例)
指導対象音 例
キシチニリ 265
キシチニ 22
キシチ リ 51
キ ニリ 14
シチニリ 23
キシチ 47
キ チ 2
キ ニ 3
キ リ 24
シチニ 28
シチ リ 18
ニリ 2
キ 46
シ 4
シチ 133
チ 4
ニ 2
リ 13
ギャ行のみ 1
リャ行のみ 1
(上記のうち[s]も側音化しているもの) (107)
[s]のみ 15
計 718
キを含むもの計 474
シを含むもの計 591
チを含むもの計 593
ニを含むもの計 359
リを含むもの計 410
[s]を含むもの計 122
上記のうち キの他にケも含む例 113
キの他にクも含む例 3
ニの他にネも含む例 3
エ段全行にも及んでいる例 4
ウ段(ク、ス、ツ、ヌ、ユ、ル)にも及んでいる例 1
[s]に鼻渋面を伴う例 1
側音化以外のサ行構音障害を伴う例 194
表中、キとはキ、ギ、キャ行、ギャ行、 シチとはシ、チ、ジ、シャ行、チャ行、ジャ行、 ニとはニ、ニャ行、 リとはリ、リャ行、 Sとはサ、ス、セ、ソ、ツ、ザ、ズ、ゼ、ゾ、 ケとはケ、ゲを言う。
注:イ、ヒ、ミ、ビ、ピ、ヤ、ユ、ヨの側音化はキ、ニ、リなどに伴って様々な程度のものが非常に多く認められるが、音質に歪みを与えていないものや個別に指導する必要のないものも多く、統計は煩雑になるため計上しない。(イの側音化は側音化全体の30数パーセントの例に見られる。)