例紹介

 

A 典型的なもの(全体の約8割を占めます。)

 1 側音化

年齢層:大学生 性別:男性
主な訴え:「イ段全般が言いにくく、人から聞き返される。」
 確かにイ段の音全部とヤ行が全部唇が片方にゆがみ、息が横に漏れている典型的な例です。集中指導の2時間目の前半までに「キ、ギ、シ、チ、ジ、ニ、リ」が大変素直に正しく治り、他の音も簡単な指導で正しくなりました。あとは単語、文章、自己紹介と順調に進み、4時間目にはほぼ完璧で自然な会話が成り立ちました。元に戻る心配がないので、帰宅してからの家族との会話練習を課して終了としました。一日で終了するケースは割合多いのですが、これはイ段全部にわたる問題が完璧に一日で治った例の一つです。
20代 女性
「サ行の発音がはっきりしないと言われる。」
 サ行の問題ではなく、典型的なシとチの問題でした。1回目に正しいシが出たので「正しくなりましたよ。」と伝えたところ、ご本人は不本意そうに「これは違います。全然違う変な声です。」という評価でした。録音を聴いてもらったところ、「これが私の発音ですか。びっくりしました。はっきり正しいですね。」と納得されました。「これまでの舌の使い方と全然違うし、発音している時は自分の耳には思いもよらない変な音だった。」ということです。2回目にチが出て、習熟練習と合わせ合計5回で終了しました。
30代 女性
「カ行が発音しにくい。」

 キとケが問題でした。ケも悪いのは比較的少数です。遠方の方なので2時間の集中指導を行い、キャ、ギャ行も含めて単語から文章までの練習まで進みました。分からなくなったらまた来て下さいということを伝えましたが、その後連絡はありませんので良いほうに考えています。
音大生 女性
「シとチが出てくる歌詞が歌えない。教授に発音を治せと言われている。」

 シとチとジがいずれも空気が洩れたように聴こえます。典型的な例なので必ずきれいに治りますと伝えてもとても心配そうでした。1回目、シ、チOK。2回目、チの単語へ。3回目、シの修正。ここでご本人は弱音を吐きました。頑張ってシの単語へ。4回目、シの文。5回目、チとジの文。ここで自己紹介のトークをしてもらいました。発音は概ねOKです。思い切って歌も歌ってもらいました。クラシックだとばかり思っていたのがポップスでびっくりしました。ずいぶんシとチの多い歌詞ですがトークよりもずっとはっきり良好です。6回目、シャ、チャ、ジャ行の文。7回目、フリートークと歌。高速のシャバダバ・・というスキャットが正しく歌えています。8回目、教授から発音が治ったねと言われたという嬉しい報告。総まとめをして終了。割合時間がかかった例です。
20代 女性
「遠方なのでキとリを少ない回数で治したい。」
 最遠方の方で、土曜日に飛行機でおいでになり一日で4時間の集中指導を行いました。幸いに治しやすい典型的なキとリの側音化でしたので見る見る上達し、家族の名前や住所、会社の人の名前など言えなかった単語がきれいになり、フリートークも自然になりました。朝家を出る時と、夜家に着いた時では全くの別人のようになられたはずです。
大学一年生 女性
「地元のスピーチクリニックで『幼児期に治しておかなければいけなかった音が治っていないので難しい。大学を卒業するまでに治せればいいですね。』と言われたがもっと早く治したい。」
 問題はキ、ケ、シ、チでしたが、これは「幼児期に治しておかなければいけなかった音」でもありませんし、またリハビリをやるわけではないのですからそんなに長期間かけて治すものでもありません。
 この方も最遠方の方で、飛行機でおいでになり一日で4時間の集中指導を行いました。約2時間で濁音、拗音も含めてすべて正しく文が読めるようになりました。シだけがやや不安定でしたが残り時間の習熟練習で安定し、フリートークも自然にできるようになりました。指導前にはもう一度おいでになる必要があるかもしれないと申し上げたのですが、結局その必要はないということで終了しました。
20代 女性
「シ、ジ、チが言えない。特殊な職業なのでしょっちゅう「チ、ジャ行、シャ行」などの単語を言わなければならないので苦しい。」
 1時間目に「シ」が正しく出、三日後に2時間目を行い「チ、ジ」、拗音も正しく出ました。他に問題の音はありません。ご本人はすでに日常会話で正しい「シ」を使えるようになっていましたので「チ、ジ」、拗音も試してみたところ文章も会話も完璧です。元に戻る心配はないと判断してその日で終了としました。
約50才 男性
「キ、ギ、リが言えない。」

 初回にキ、ギ、リの練習法を習得し、2回目に単語、文章、会話練習を行いました。ギリギリ、キリギリスなども含めすべて完璧でしたのでそこで終了しました。このように発音は年齢に関係なく治るものなのだと思います。

(ほか多数)


 2 サ行

40代 男性 話し方教室講師
「講師の進級試験でサ行が甘いので駄目だと言われた。」

 シ以外のサ行で歯の間から舌先が見えてフワフワしたはっきりしない音になっていました。舌の位置を按配すると簡単に正しい子音[s]が出ましたのですぐ例語、例文の練習に入りました。2回目でほぼ安心できるところまで達したのですが、ご本人の希望でさらに4回の実践練習を行いました。その後試験合格の知らせがありました。明るく素朴な感じと良く通る声の方でしたので、いい先生になられたことでしょう。
大学生 男性
「小学校の頃からキが正しく発音できなかったのだが、いつの間にか直った。今度はサ行が気になってきた。」

 キが自然治癒するのはままあることです。サ行の子音は一回目にできました。その後すこし修正しながら2回目と3回目で正しいサ、ス、セ、ソができ、4回目にはご本人の気付いていないラ行を治し、5回目にサ行とラ行の文章練習を行いました。ご本人が自信が付いたということで終了しました。
20代 女性
「保母試験に一回落ちた。発音が原因なのは分かっているので治したい。」
 サ行全部とチが明らかな歯間性で、英語のthのような舌が大変目立ちました。ス、ツ、ズ、シ、チ、ジの全ての子音が1回目で正しくできましたので、その後3回のお話練習を行いました。「三匹のガラガラドン」とかいうお話でしたが発音は完璧になりました。美容上の観点からも喜ばれました。
20代 男性 アナウンサー
「上司に言われて来た。球場で舌っ足らずアナウンサーとやじられたことがある。」

 舌の位置が悪い接歯性と言われる、いわゆるだらしない感じの発音でした。1回目に正しくなりましたがやや不安定でした。上司の方にはたった一回だけでガラッと良くなったという評価を頂きました。2回目に摩擦成分が強くなって安定しました。その後色々な指導は続きましたが、発音については一貫してOKでした。
 (私の元々の出発点はアナウンサーの構音指導にありました。現役アナウンサーのほんのわずかな発音の違和感を除去する精密な構音指導の経験からすると、一般の方の機能性構音障害の指導はまあ、失礼な言い方ですが赤子の手をひねるようなものです。例外はありますが。ところが最近はこの例のように明らかな発音上の問題を持ったアナウンサーが見受けられるようになってきました。一般の人との境目がなくなってきたようです。)
20代 男性
「サ行の発音を自分で直そうとしたが直らない。」
 舌の感じが典型的なものとやや違いました。高校の時以来音声学の本で研究して直してきたということですが、それが却ってこじれの原因かもしれません。音声学の本の記述というのは正しい発音を当然の前提としてその舌の形のうち音源の位置を記述することに重点が置かれているため、正しい発音の「作り方」という観点から見ると肝心の点が抜けているものなのです。この方も音声学やアナウンスの本の言う通り懸命に舌先を上の歯茎に近付けていますが、当然曖昧な音しか出ていませんでした。しかし舌の感覚に敏感になっていることは幸いで、正しい音はすぐにできました。2回の指導であとは自己練習で大丈夫でした。

(ほか多数)


 3 複合型

大学生 男性
「全般的に発音が悪いと言われる。」
 サ行とイ、キ、ニ、リの問題です。いちばん気になるキから開始しました。キに1時間、リに1時間、サ行に1時間、その他に3時間、総計6回で全音節良となりました。その後2回の文章練習を終えた時点で完全な般化(全く無意識で発音が常に完璧となっている)に達したようです。まるで元から何の問題もなかったような滑らかさと自然さで、ご本人も発音上何の意識もしていないといいます。全体の時間は少なかったわけではないのですが、教室初期の頃の例としては般化が最も順調だったケースだと思います。
医大生 男性
「発音に問題がある。職業上将来に不安を感じる。」

 サ行とキ、シ、チ、ヒ、リに問題がありました。1回目、サ行の子音OK。単語へ。2回目、ツで左奥に空気が洩れているという訴え。ツの側音化は珍しいものです。しかしすぐ治りました。キOK、単語へ。3回目、リ、ヒ、シOK。単語へ。4回目、チ、ジOK。単語へ。5回目、文章練習、会話練習。ご本人も自信があるというので終了としました。その後確認の機会がありましたが完璧でした。
中学生 男性
「自分の名前を言うのがすごくいやだ。親から赤ん坊の時に検診で舌の裏を切る手術をしたと聞いたがそれがいけなかったのだろうか。」

 サ行が完全な歯間性で、常に口が開いた状態です。加えてキ、シ、チ、ニ、リの問題です。ご本人の名前にはサ行とシとチがしっかり入っています。余談ですが、皮肉なことにほとんどの場合苦手な音が必ずと言っていいほど自分の名前に入っているものです。偶然なのでしょうが。さて、このケースではサ行子音に1時間、ツに1時間、シ、チに1時間。ここでゆっくり言えば名前を完全に言えることを確認して先に進みました。全6時間で文章練習に入り、8時間で終了しました。もちろん名前は普通に正しく発音できました。なお、小さい時の手術とは直接の関係はありません。
20代 男性
「ラ行の発音がおかしいと言われる。」

 ラ行も問題でしたがそれ以上に実際に目立つのはサ行とイ段でした。このように一般の人が漠然と受ける印象と実際の発音の状態とは一致しないことも多いのです。さてイ段はキ、シ、ニが問題なのでしたが、ここで興味深いのはチに問題がなかったことです。シが悪いのにチが正しいというケースはこの時が初めてでした。4回目でラ行以外が出来上がりましたのでフリートークに進みました。5、6回目でラ行、7回目でリャ行に進み、そこで終了しました。ラ、リャ行については目立たない程度でしたので却って今後の自己練習が必要となるでしょう。

(ほか多数)



B 比較的少ない例

30代 女性 高校教師
「ギャ行がうまく言えない。」

 ギャ、ギュ、ギョがリャ、リュ、リョとなってしまっています。キの発音から説明してキヤ、ギヤ、ギャへと進むと正しくなりました。あとは慣れるまで自己練習のみということで1回で終了しました。
20代 女性
「サ行が言えない。小学校のことばの教室というところへ通ったことがあるが治らなかった。夫はこのままでいいと言ってくれるが、私は治したい。」

 シ以外のサ行が口の奥で発せられていました。濁ったハ行のような異様な音で、評価レベル20台、ひずみ度#3です。1回目、サ行の正しい子音[s]が無事出ました。2回目、サ、ス、セ、ソが言えました。3回目、ツ、ズが言えました。この後もう少し実践練習を続けるつもりでしたが、ご本人が大丈夫というので終了としました。私としては初めて聞く音で、しかも劇的な改善だったので忘れられないケースです。その後うまく定着してくれただろうことを願っています。
 なお、現在ではこの種の音(口蓋化、咽頭化、後方化などといいます)も簡単に治せることを確認しています。
20代 男性
「発音が小さい時から苦手だ。」
 サ行の子音が、伸びた舌先が上歯茎に向かっているため全く別種の摩擦音となっています。印象としてはハ行のようです。1回目に正しい子音が出て、2回目にサ、ス、セ、ソが正しく出ました。3回目に単語と文の練習に入りました。最初の印象に反して素直に治ったと思います。その後別の典型的な問題に移り、全11回で終了しました。このように長くかかる例は非常にまれです。
30代 女性 インストラクター
「人前でしゃべるのが苦手だ。」

 シ以外のサ行が歯と下唇を使った英語の[
f ]になっていました。ファなどと聴こえます。ツも同様です。ご本人ははっきりとは気が付いていませんでした。1回目に鏡を見て理解してサ行の単語まで進み、2、3、4回目は複雑な文章、フリートークまで進み終了としました。ただし、うっかりすると元の音が出る危険性は残っているのでしっかり自分で練習を続ける、と確認しました。
30代 女性
「サ行とイ段が言いにくい。」

 その通りなのでしたが、サ行はシだけでなく全部側音化していました。このようなはっきりした例の初めてのケースでしたので緊張しましたが実は案外にすぐに治りました。1回目でサ行のほかキ、シ、が正しくなりました。遠方の方だったので2回目は2時間の指導、3、4回目は1時間ずつ、合計5時間でフリートークまで問題がなくなりました。その後念のため時間を置いてもう一回おいでになりましたが順調なことを確認しました。
30代 男性 司会業
「仕事上でラ行が甘いと言われる。」

 ラ行の普通の問題と異なり、舌を伸ばして上歯茎に付ける、英語のエル[
l ]のような音です。目で見ると尚更に変な感じがします。ラ行だけではなく、タ、ダ、ナ行もそうなっているのですが、音自体は目立ちません。舌の位置を直し、2回目までに各音とも正しくなりました。ご本人の都合で終了しましたが心配は残りました。7ヶ月後、やはり不安だということで再度おいでになりましたが、発音は大分元に戻っていました。もう一度舌の正しい位置と使い方をやり直し、今度は以前よりも確信を得られたようでした。

(ほかに様々な音の例があります。)



注:掲載した例はすべて機能性構音障害の例です。これらは音声学的構音指導で上記のように殆ど有効に治癒します。しかし他の種類の構音障害ではこのような好成績を望むことはできません。

参考:2001〜2010年にお引き受けした約1000例のうち、初回の指導で有効な効果まで至らなかったものは次の3例です。
 「側音化構音ではないが、シ、チがヒ、キに近くなるもの」 2005年1例  2009年1例 側音化構音であれば例外なく治ると言えるのですが、2例とも異常構音ではなく単なる調音点の後退で、訛りまたは特定の外国語音のように聞こえるものです。過去の一時的な聴覚の問題に関係があのるかもしれません。現在では対処法が分かっています。
 「口蓋化時の全般的な舌の硬直」 2009年1例  舌の硬直が例外的に強く、有効な効果まで至りませんでした。治癒する可能性は大きいのですが運動性に準じた比較的長時間の訓練が必要だと思われます。



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資料 成人の機能性構音障害

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