発音相談に対する誤った回答の例

 

 次に挙げるのは十年ほど前に某全国紙に掲載された健康相談より要約したものです。(回答は某大学医学部耳鼻咽喉科某先生)

  質問

舌足らずの発音で、シキリ、ギリギリ、シリョウ、などが正しく言えないのですが、どうしたら良いでしょうか。(33歳女性)

  回答

舌足らずの発音には大きく分けて機能性のものと運動性のものがあります。

機能性のものは6〜7歳までに治さないとそのまま治らないことが多いです。

あなたの場合はたぶん運動性と思われます。

訓練は病院で診察を受けてST(言語聴覚士など)の指導を受けて下さい。「イ」の口の形の練習が基本です。

二〜三ヶ月ぐらいから効果が出ます。

但し、運動性の場合は効果が出にくいこともあります。

 これはごく一般的な医学的応対です。
 しかしこれこそが安易に見過ごしてはならない一般的誤解の元と言わなければなりません。
 まず、回答の二行目、「6〜7歳までに治さないとそのまま治らないことが多い」は、正しくは「6〜7歳までに治した方が良いものと、もっと高学年にならないと治しにくいものとの二種類がある」でなければなりません。
 次の「運動性」はこれはどうしたのでしょう、誤植でなければ勘違いです。それとも紙面には出ていない別の根拠があるのでしょうか。
 ふつう、STによってこのケースが解決されることは期待できません。
 また正しい構音指導はその日に効果が現れるものです。機能性のもので二〜三ヶ月ぐらいから効果と言うのは論外です。
 以上、残念ながら一行目と最終行以外は正確な答えとは言えません。

 この記事に限らず、類似の医学的応対は、つまりは機能性の構音障害は医学的には事実上コミット対象とはされていないにもかかわらず、良く言えば善意の義務感から、解らないものに対しても一応の説明をしてみたといったところなのでしょう。
 現在では当時よりも新しい知見が広まりつつあるとは言え、構音障害専門研究者の一般への啓蒙、PR活動、医学界へ向けての一層のアピールが望まれます。

 

参考:正しい回答

舌足らずの発音には大きく分けて機能性のものと運動性のものがあります。
機能性のものは6〜7歳までに治した方が良いものと、もっと高学年にならないと治しにくいものとの二種類があります。
あなたの場合は機能性の後者の典型的なものです。
訓練はそれぞれの正しい舌の形、息の出し方の練習が基本です。
すぐに正しい発音ができるようになりますので、そのあと会話の練習に移ります。早ければ一ヵ月以内に完治します。
なお、運動性の場合にはふつうこのような即効性は望めません。

 

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